ロードヒポキシス

可憐、無意識

アルミ削り出しキーボード「Tabula TKL」を作りました(とアンケート)

ほぼほぼキーボードの話しかしなくなったぺかそです。
間を開けている間にテレビに出演したりうわあなんだか凄いことになっちゃったぞ(五郎並感)な感じで余計に忙しい日々です。

Tabula TKL

さて、本題ですが今回「Tabula TKL」という自作キーボード/カスタムキーボードの中でもハイエンドな部類に属するキーボードを作りました。
個人的にも初めて設計したアルミ削り出しの筐体を持つ重量、剛性を高めて打鍵感を重視したキーボードです。重量約2kg、わずかに2.2kgある私の初期の作品より軽いですが完成度としては遥かにこちらのほうが上です。

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Tabula TKLはオーソドックスなテンキーレスキーボードとして作りました。テンキーレスというのはキーボード右側のテンキー部分が無いキーボードです。
横幅が狭くなるので必然的に(右利きの人は)右手とマウスの間を行ったり来たりする距離が短くなったり机の上のスペースを取らないので市販品でも人気のあるサイズです。

Tabula TKLはテンキーレスより更に右側1列少ない81キー(日本語配列は85キー)のキーボードです。一般的な配列より右下の矢印キー(カーソルキー)が一列分左側にきているため、ホームポジションから(若干)近い利点があります。また周囲のキーから1/4キーほど離れているため矢印キーが独立していて押しやすいのも特徴です。あとかっこいい。このカーソルキーの元ネタというか似たような配列としてCherry G80-1800や、MagicForce keyboardがあります。

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G80-1800はテンキーがついてて大きく、MagicForceはファンクション行(ESC~F12あたり)が無いので、Tabula TKLはその中間を狙った形となります。 また、Cherry G80-1800の配列では右Shiftの1.75Uサイズのキーキャップが無いキーキャップセットは使えませんが、Tabula TKLなら基本的なANSI(英語)配列のキーキャップセットで対応可能です。 また、Tabula TKLの特徴として日本語配列に対応しています。この手のハイエンドキーボードはほぼ海外の設計のため、基板として日本語配列に対応したものとしては初になるかと思います。(実質的に日本語に対応しているキーキャップの選択肢がMajestouchの交換用キーキャップに限定されてしまいますが…)

もちろんキーボードファームウェアはQMK Firmwareでカスタムできるため、キー配列/キーマップもある程度自由に決定できます。

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Tabula TKLが対応している配列。白は英語配列、青色が日本語配列で緑色と最下段は限定的にスプリットスペースキー(スペースキーを分割し別のキーへ割当る)の配列にも対応しています。

その他のスペックとしては、FR4プレート、ガスケットマウント、Type-Cコネクタ、傾斜は7°です。

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作りかけ

Tabula TKL IC

今回ブログにしたためたのは後々販売を行おうと考えているためです。ほとんど決まっていませんが価格は30,000円~、順調に行けば来年辺りを目標に販売をします。
そのために一旦IC(Interest Check, いわゆる「興味ある?」アンケート)への協力をお願いします。まず初回は筐体のカラーや組み立ての度合い、追加機能についての質問です。

以下のGoogleフォームからよろしくお願いします。

docs.google.com

反応の度合いによっては続きが作られるかもしれません。 おわり。

60%キーボードのケースを頑張って3Dプリントする

なにこれ

f:id:kou014:20200325113635j:plain ↑のようなキーボードの筐体を一般のご家庭にあるような3Dプリンタで出力した話です。

要約

  • 60%キーボードのケースを3Dプリントした
  • 一般のご家庭ではプリントできないサイズなので分割して接着する
  • PLAの接着はアクリル接着剤が良い

今回は買えば即終わるはずの60%キーボードのケースを気合で3Dプリントして組み上げるまでのまとめを書きたいと思います。 ちなみにほぼ週刊キーボードニュースで紹介してたりするので余計な文字を見たくない人はこちらをどうぞ

youtu.be

60%キーボード

フルキーボードからテンキーを取っ払い、矢印キーとその上のところにあるHomeやらPage Downやらのキーを無くし、更に最上段にあるF1~F12と書かれたパソコン初心者には使いみちのよくわからないキーも全部削ったのが60%キーボードです。

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60%キーボードのレイアウトの例(ANSI

この60%キーボードは自作キーボードの中でも程よく少ないキーで組み立てやすいのが特徴です。
特にカスタムキーボードの初期の頃に生まれたGeekHack60、いわゆる「GH60系」の互換性のあるパーツが多く存在し、国内だと遊舎工房さんでGH60互換のDZ60ケースが買えたりします。

事の発端

今年の初めに遊舎工房さんが販売した福袋から、GH60互換PCBであるところのHS60の基板が出てきたのが始まりです。
HS60はキーごとのバックライトに対応していたり、キースイッチがソケットでスワップ可能などの高機能なPCBです。福袋が1万円でしたがこのPCBだけで8,000円相当。元が取れました。

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https://www.youtube.com/watch?v=IxVTLfPyUxg&t=2403s

ケース選び

福袋に入っていたのはPCB単体なのでこれだけでキーボードとしては完結せず、他にキースイッチ、キーキャップ、ケースが必要です。
キースイッチとキーキャップは既に持っているものを利用しました(後々キースイッチは交換しましたが)。

残るはケースで、前述の通り遊舎工房さんなどで取り扱われているケースを買えばそれで終わりです。しかしそれでは面白くないので、より打鍵感を高めることを目的に自分で設計する事にしました。

ケース設計

打鍵感をよりよいものにするために注目したのは「プレートのマウント方式」です。
通常のGH60系のキーボードは「トレイマウント」と呼ばれ、PCBのネジ穴を使ってケースに固定します。設計がシンプルになるなどの利点がありますが、PCBに不均等に空けられたネジ穴の影響で、ネジ周辺とそれ以外でスイッチの感触が変わる欠点もあります。

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トレイマウントのイメージ

今回採用したのは「ガスケットマウント」と呼ばれるマウント方式です。
この方式はプレートをガスケット(クッション素材)でケースと接するタイプで、打鍵時の衝撃をガスケットに吸収させるなど静音性や打鍵感に優れる方式です。いい感じのお値段のするカスタムキーボードのケースなんかは大体この辺りのマウント方式を使っています。

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ガスケットマウントのイメージ。プレートとケースの間の濃い灰色の部品がガスケット

PCBであるHS60はスイッチがソケットタイプのため、ネジ止めどころかはんだ付けもされずに空中に浮く形になりますが、今の所使用中に外れるような感じも無いので大丈夫でしょう。

プレートの設計

プレートが専用になるため、Plate & Case BuilderでさっくりとHS60用のANSIレイアウトを作った後、ケースにマウントするためのタブ(飛び出た部分)を作りました。図を見ると当初は「トップマウント」としてネジ止めすることを考えていたのでネジ穴が空いています。

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プレートの設計

プレートはLaserBoostさんを利用しました。素材はアルミの5754でヘアライン仕上げを選びました。ここの良いところは値段がやすいことと厚さにCherry MXに最適な1.5mmを選べる他、キーボードのプレートを作るとオリジナルのポストカードをおまけにつけてくれます。

www.laserboost.com

(ちなみに1枚同じプレートが余っているので欲しい人はTwitterかなにかで言ってもらえるとお譲り出来ます。)

GH60のPCBモデルはググったら出てきたこれをお借りしました。USBコネクタの位置等を検討するのに良いモデルです。

トップケースの設計

上側のケースの設計です。これはプレートを取り囲むようにプレートの外形を拡大してタブがハマるような形にします。また、次に設計する下側のケース(ボトムケース)と噛み合わせるための凸部を作っておくと組む時にきれいに収まります。

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トップケース(上部のケース)の拡大図

上図の左側に見えるのはUSB Type-Cコネクタ基板です。今回使用するHS60が今では殆ど見ないMini USBのため、これをケース内部でType-Cに変換するための役割を持っています。
変換基盤には秋月電子DIP化基板を使いました。基板寸法は秋月電子から、コネクタは公開されているCADデータを使って自作しました。

ボトムケースの設計

ボトム側はFusion360のロフト機能を使って傾斜をつけつついい感じに設計します(雑な説明)。重要なのはトップケースの凸に合わせた凹をつけるのと、PCBが干渉しないことを確認することです。加えてPCBのMini USBのスペースと、USB Type-Cのコネクタ基板用の穴も空けます。

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ボトムケース

また、このケースで特徴的なのはボトムケースの底面にあたる部分をアクリル板で作った点です。
ここだけアクリル板になっている理由は、一つは3Dプリント時に板状のものをプリントするのに時間がかかること。もう一つは3Dプリントした筐体の剛性を高める狙いがあります。アクリル板と3Dプリント部は後で接着するので、3Dプリントケース側にのりしろのようなものを作っています。

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ボトムケースの底板部分。アクリル板で別に作った

底板は遊舎工房さんのアクリルのレーザーカットでマット白の3mm厚のアクリルを加工してもらいました。四隅の丸はゴム足用で、真ん中にあるエンボスのロゴはこれが元ネタです。

ちなみにネジは6本ですべてM3です。ボトムケース側から挿入してネジ止めしますがトップケース側には特にインサートナット等は設けてません。積層方向的にセルフタッピングでいけるだろうと思ってます(いけました)。

また今回作ったデータは以下で公開しています。そのまま使う物好きはいないと思いますが参考までに。

www.thingiverse.com

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今回設計したケース(とプレート)の全体図

3Dプリント

で、設計した3Dプリントデータを出力するのですが、このサイズのキーボードのケースを3Dプリントしてみたい場合に問題が出てきます。
一般的なご家庭にある3Dプリンタは大体20cm四方から25cm四方のサイズの造形が可能ですが、60%キーボードはキー部分だけでも約28cmあるため、そのままでははみ出してしまいます。

そのためトップケース、ボトムケースをそれぞれ4分割、2分割して印刷しました。
もちろん分割したものは印刷後に接着します。今回プリントに使用したフィラメントはPLAのためアクリル接着剤を使いました。PLAフィラメントに関してはアクリル板同士の接着同様に溶着が可能なので、それなりの剛性を保った状態で接合出来ます。同様に底面のアクリル板ともガッツリ接着できます。

またPLAは造形温度がそこまで高くないので、歪んでもドライヤーで温めてえいえいってやればいい感じになります。私はやりすぎてボトム側が少し歪んでしまいましたが…

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仮止めして接着する様子

組み立て

接着して24時間放置(+ドライヤーで矯正)して完全にくっついたのを確認してから組み立てます。今回プレートをガスケットでマウントするため、クッション素材としてダイソーで買った2.5mm厚のEVAフォームを使いました。設計の厚さより厚いですがネジ止めした際に潰れていい感じになるのでそのまま採用しました。

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クッション素材はEVAフォームを両面テープでプレートに貼り付け

USB周りの配線は、余っていたMini USBケーブルをばらしてType-C基板とはんだ付けします。PCBのHS60とコネクタで脱着できるようにすることでメンテナンス(することがあるかわかりませんが)しやすいようにしています。Type-Cコネクタや、ばらしたMini USBケーブルはエポキシ系接着剤で固定しています。

また、3Dプリントとアクリル板では重量が確保出来ないのと制振的な作用に期待して、鉛を底面に貼りました。設計時点でショートしないよう確認済みなので贅沢に貼り付けました。

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USBコネクタの配線と鉛

完成

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完成した図

というわけで3Dプリントでつくる60%キーボード「This is KEEB」が完成しました。写真の構成は以下のとおりです。

  • HS60 ANSI PCB
  • Gateron Silent Black (Krytox GPL 105 lubed)
  • EnjoyPBT 2048 Extended Keycap

打鍵感に関しても、スタビライザー(これはイベントの貰い物)がちょっとカチャついて微妙ですがそれ以外に関しては概ね満足で、3Dプリントにしては上出来なものが作れたのではないかと思います。このブログもこのキーボードで書いています。

以下写真集

imgur.com

おわり