ロードヒポキシス

可憐、無意識

60%キーボードのケースを頑張って3Dプリントする

なにこれ

f:id:kou014:20200325113635j:plain ↑のようなキーボードの筐体を一般のご家庭にあるような3Dプリンタで出力した話です。

要約

  • 60%キーボードのケースを3Dプリントした
  • 一般のご家庭ではプリントできないサイズなので分割して接着する
  • PLAの接着はアクリル接着剤が良い

今回は買えば即終わるはずの60%キーボードのケースを気合で3Dプリントして組み上げるまでのまとめを書きたいと思います。 ちなみにほぼ週刊キーボードニュースで紹介してたりするので余計な文字を見たくない人はこちらをどうぞ

youtu.be

60%キーボード

フルキーボードからテンキーを取っ払い、矢印キーとその上のところにあるHomeやらPage Downやらのキーを無くし、更に最上段にあるF1~F12と書かれたパソコン初心者には使いみちのよくわからないキーも全部削ったのが60%キーボードです。

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60%キーボードのレイアウトの例(ANSI

この60%キーボードは自作キーボードの中でも程よく少ないキーで組み立てやすいのが特徴です。
特にカスタムキーボードの初期の頃に生まれたGeekHack60、いわゆる「GH60系」の互換性のあるパーツが多く存在し、国内だと遊舎工房さんでGH60互換のDZ60ケースが買えたりします。

事の発端

今年の初めに遊舎工房さんが販売した福袋から、GH60互換PCBであるところのHS60の基板が出てきたのが始まりです。
HS60はキーごとのバックライトに対応していたり、キースイッチがソケットでスワップ可能などの高機能なPCBです。福袋が1万円でしたがこのPCBだけで8,000円相当。元が取れました。

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https://www.youtube.com/watch?v=IxVTLfPyUxg&t=2403s

ケース選び

福袋に入っていたのはPCB単体なのでこれだけでキーボードとしては完結せず、他にキースイッチ、キーキャップ、ケースが必要です。
キースイッチとキーキャップは既に持っているものを利用しました(後々キースイッチは交換しましたが)。

残るはケースで、前述の通り遊舎工房さんなどで取り扱われているケースを買えばそれで終わりです。しかしそれでは面白くないので、より打鍵感を高めることを目的に自分で設計する事にしました。

ケース設計

打鍵感をよりよいものにするために注目したのは「プレートのマウント方式」です。
通常のGH60系のキーボードは「トレイマウント」と呼ばれ、PCBのネジ穴を使ってケースに固定します。設計がシンプルになるなどの利点がありますが、PCBに不均等に空けられたネジ穴の影響で、ネジ周辺とそれ以外でスイッチの感触が変わる欠点もあります。

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トレイマウントのイメージ

今回採用したのは「ガスケットマウント」と呼ばれるマウント方式です。
この方式はプレートをガスケット(クッション素材)でケースと接するタイプで、打鍵時の衝撃をガスケットに吸収させるなど静音性や打鍵感に優れる方式です。いい感じのお値段のするカスタムキーボードのケースなんかは大体この辺りのマウント方式を使っています。

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ガスケットマウントのイメージ。プレートとケースの間の濃い灰色の部品がガスケット

PCBであるHS60はスイッチがソケットタイプのため、ネジ止めどころかはんだ付けもされずに空中に浮く形になりますが、今の所使用中に外れるような感じも無いので大丈夫でしょう。

プレートの設計

プレートが専用になるため、Plate & Case BuilderでさっくりとHS60用のANSIレイアウトを作った後、ケースにマウントするためのタブ(飛び出た部分)を作りました。図を見ると当初は「トップマウント」としてネジ止めすることを考えていたのでネジ穴が空いています。

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プレートの設計

プレートはLaserBoostさんを利用しました。素材はアルミの5754でヘアライン仕上げを選びました。ここの良いところは値段がやすいことと厚さにCherry MXに最適な1.5mmを選べる他、キーボードのプレートを作るとオリジナルのポストカードをおまけにつけてくれます。

www.laserboost.com

(ちなみに1枚同じプレートが余っているので欲しい人はTwitterかなにかで言ってもらえるとお譲り出来ます。)

GH60のPCBモデルはググったら出てきたこれをお借りしました。USBコネクタの位置等を検討するのに良いモデルです。

トップケースの設計

上側のケースの設計です。これはプレートを取り囲むようにプレートの外形を拡大してタブがハマるような形にします。また、次に設計する下側のケース(ボトムケース)と噛み合わせるための凸部を作っておくと組む時にきれいに収まります。

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トップケース(上部のケース)の拡大図

上図の左側に見えるのはUSB Type-Cコネクタ基板です。今回使用するHS60が今では殆ど見ないMini USBのため、これをケース内部でType-Cに変換するための役割を持っています。
変換基盤には秋月電子DIP化基板を使いました。基板寸法は秋月電子から、コネクタは公開されているCADデータを使って自作しました。

ボトムケースの設計

ボトム側はFusion360のロフト機能を使って傾斜をつけつついい感じに設計します(雑な説明)。重要なのはトップケースの凸に合わせた凹をつけるのと、PCBが干渉しないことを確認することです。加えてPCBのMini USBのスペースと、USB Type-Cのコネクタ基板用の穴も空けます。

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ボトムケース

また、このケースで特徴的なのはボトムケースの底面にあたる部分をアクリル板で作った点です。
ここだけアクリル板になっている理由は、一つは3Dプリント時に板状のものをプリントするのに時間がかかること。もう一つは3Dプリントした筐体の剛性を高める狙いがあります。アクリル板と3Dプリント部は後で接着するので、3Dプリントケース側にのりしろのようなものを作っています。

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ボトムケースの底板部分。アクリル板で別に作った

底板は遊舎工房さんのアクリルのレーザーカットでマット白の3mm厚のアクリルを加工してもらいました。四隅の丸はゴム足用で、真ん中にあるエンボスのロゴはこれが元ネタです。

ちなみにネジは6本ですべてM3です。ボトムケース側から挿入してネジ止めしますがトップケース側には特にインサートナット等は設けてません。積層方向的にセルフタッピングでいけるだろうと思ってます(いけました)。

また今回作ったデータは以下で公開しています。そのまま使う物好きはいないと思いますが参考までに。

www.thingiverse.com

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今回設計したケース(とプレート)の全体図

3Dプリント

で、設計した3Dプリントデータを出力するのですが、このサイズのキーボードのケースを3Dプリントしてみたい場合に問題が出てきます。
一般的なご家庭にある3Dプリンタは大体20cm四方から25cm四方のサイズの造形が可能ですが、60%キーボードはキー部分だけでも約28cmあるため、そのままでははみ出してしまいます。

そのためトップケース、ボトムケースをそれぞれ4分割、2分割して印刷しました。
もちろん分割したものは印刷後に接着します。今回プリントに使用したフィラメントはPLAのためアクリル接着剤を使いました。PLAフィラメントに関してはアクリル板同士の接着同様に溶着が可能なので、それなりの剛性を保った状態で接合出来ます。同様に底面のアクリル板ともガッツリ接着できます。

またPLAは造形温度がそこまで高くないので、歪んでもドライヤーで温めてえいえいってやればいい感じになります。私はやりすぎてボトム側が少し歪んでしまいましたが…

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仮止めして接着する様子

組み立て

接着して24時間放置(+ドライヤーで矯正)して完全にくっついたのを確認してから組み立てます。今回プレートをガスケットでマウントするため、クッション素材としてダイソーで買った2.5mm厚のEVAフォームを使いました。設計の厚さより厚いですがネジ止めした際に潰れていい感じになるのでそのまま採用しました。

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クッション素材はEVAフォームを両面テープでプレートに貼り付け

USB周りの配線は、余っていたMini USBケーブルをばらしてType-C基板とはんだ付けします。PCBのHS60とコネクタで脱着できるようにすることでメンテナンス(することがあるかわかりませんが)しやすいようにしています。Type-Cコネクタや、ばらしたMini USBケーブルはエポキシ系接着剤で固定しています。

また、3Dプリントとアクリル板では重量が確保出来ないのと制振的な作用に期待して、鉛を底面に貼りました。設計時点でショートしないよう確認済みなので贅沢に貼り付けました。

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USBコネクタの配線と鉛

完成

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完成した図

というわけで3Dプリントでつくる60%キーボード「This is KEEB」が完成しました。写真の構成は以下のとおりです。

  • HS60 ANSI PCB
  • Gateron Silent Black (Krytox GPL 105 lubed)
  • EnjoyPBT 2048 Extended Keycap

打鍵感に関しても、スタビライザー(これはイベントの貰い物)がちょっとカチャついて微妙ですがそれ以外に関しては概ね満足で、3Dプリントにしては上出来なものが作れたのではないかと思います。このブログもこのキーボードで書いています。

以下写真集

imgur.com

おわり

自作キーボードと #キーボードニュース と私

この記事は「キーボード #1 Advent Calendar 2019」の25日目の記事です。大トリ。

adventar.org

ふとこのブログの一つ前の記事を見たら昨年の自作キーボードAdvent Calendar 2018の記事でした。
丸々1年間が開いてしまいましたこのブログ、今年もキーボードしかやってないのでそのまとめをしようと思います。

今年1年も色々ありましたが、個人的には何よりキーボード専門ニュース番組「ほぼ週刊キーボードニュース」を開始したことです。YouTubeで毎週日曜日に配信しているこの番組はパーソナリティはびあっこちゃんと17歳ケモミミ女子高生のぺかそちゃんの二人でお送りしており、私は主にぺかそちゃんのマネージャーとして身の回りや配信中の裏方のお仕事をさせていただいております。

今回はそのへんも織り交ぜながらいきたいなと思います。相変わらずTwitterへのアクセスが多い記事になっております。

www.youtube.com

1月

キーボード1台目。正月休みを利用してRomlyさんキーキャッピー神を磨いて塗装していました。KailhのBig Switchを使うこいつはガッチャンコガッチャンコうるさいので玄関でアイアンマン(Mark 6)と一緒に守り神になってもらっています。

今年の初めには遊舎工房がオープンしてましたね。年が明けると1周年です

そして1月27日に「ほぼ週刊キーボードニュース」の記念すべき第1回を配信しました。初回だったというのもあり、配信の手順の確認やらの準備にめちゃくちゃ時間がかかったのを思い出します。

2月

ぺかそちゃんの見た目がちょっと変わった。

3月

キーボード2台目。久々に普通の(?)キーボードということでKBDfansの5 degreeケースと真鍮プレートで組み合わせた青系のキーボードです。NovelKeysの臭いCream Switchが入っているので打鍵感の良さも気になり始めたときの一台。

4月

第12回から春服になる。ぺかそちゃんじつはあんまり私服を持っていない。びあっこちゃんのこと言えないけれど

ほぼ週刊キーボードニュースのチャンネル登録者数が600人を超える。前日にアスキーさんの配信で紹介された影響と思われる。うれしい。

キーボードは3台目、もともと左右分離型のFortitude60をくっつけ中央にトラックボールを配置した「Fortitude60-brd」を作った。筐体はTALP KEYBOARDさんに個人的にお願いして作ってもらったローズウッドのレーザーカットによるサンドイッチケース。隙間が乳白のアクリルでLEDが光る。かっこいい。

www.reddit.com

3Dプリンタが届く

5月

六本木でゆかりさん主催の「天下一キーボードわいわい会 Vol.2」が行われた。その中のびあっこ氏による「それはそう公開収録」にてぺかそちゃんが登場した。 f:id:kou014:20190506170355j:plain

6月

キーボード4台目、昨年末に作ったカーボンFRP製プレートで作ったErgo42に、カーボン入のフィラメントで作った3Dプリントケースを付けてあげた。ほどよくマットな質感で、重厚感が出たので満足。

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7月

ぺかそちゃんが浴衣姿になる。

ぺかそちゃんが水着姿になる。寒いので二度とやらないと言っていた。

キーボードを担いで苔を見に行ったりした。このとき撮った写真が来年の自作キーボードカレンダー2020に採用されました! f:id:kou014:20190706150306j:plain

8月

ほぼ週刊キーボードニュースのチャンネル登録者数が1,000人を超える。本当にありがとうございます。

コミケで自作キーボード本を出す。「BUILD YOUR OWN KEYBOARDs [compiled+]」ということでこれまで出たBYOKの総集編でした。

booth.pm

ほぼ週刊キーボードニュースの初の公式グッズとしてぺかそちゃんアクリルフィギュアを作った。キースイッチがはめ込めるのでキーボードと名乗れる

booth.pm

9月

ぺかそちゃんの衣装が変わった。

YouTubeチャンネルの収益化申請が通る。

チャンネル登録者数1,000人突破記念でオリジナル基板プレゼント企画を行ったりした。

TwitterのTL上の人間は無限に行ってるけれど現実にはるるぶにも載ってない都市深センに初めて行く。2泊しても飽きなかったのでまた行きたい。キーボードは遭ったけどパーツはなかったのでそこは残念。だけど幸運なことに近くでニコ技深センが借りているオフィスにお邪魔して、自由に配列が変えられるキーボード「DuMang」を触らせてもらったりした。

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キーボード5台目、遊舎工房でGroupBuyが行われ、その後Extraを販売していた「UT47.2」を完成させた。途中経過はちょくちょく番組内でやっていて2ヶ月近く(途中深セン行ったりして中断していたが)かけてじっくり組み立てた。3Dプリントケースを塗装したり、鉛やらスポンジやらを詰めたりして見た目や打鍵感にもこだわった一台。このあとに遊舎工房さんが鉛を扱い初めて鉛チューンがちょっと流行った。

10月

ぺかそちゃんフィギュアができる

ぺかそちゃんハロウィン衣装にチャレンジする

ITmedia NEWSさんで連載をさせていただける事になった。IT関連の方々が見るようなネット媒体に自作キーボードのことを書いても良いのかと戦々恐々としながら第1回を書いた覚えがある。ちなみに連載タイトルの「ハロー、自作キーボードワールド」は寝不足の時に思いついたのを書いたらそのまま採用された。店内BGMの中では一番好きです。

www.itmedia.co.jp

11月

ぺかそちゃんの見た目がちょっと変わった

1,000人記念基板が色々あって遅くなりこの時期になった。特別版としてアクリルに記念イラストを印刷したバージョン(通常版は基板のシルクに記念イラストが入っている。どちらかというとシルクの調整が一番難しかった)は記念盾のようになって非常に満足している。

キーボード6台目、Corne Cherryのケースを3Dプリントで作るやつをした。底蓋に足をつけるアイデアは思いついた割にはちゃんとそれっぽく出来たので満足している。色といいめちゃくちゃおもちゃっぽいので気に入っている。

12月

天下一キーボードわいわい会Vol. 3の「それはそう公開収録」でまたぺかそちゃんが出たりした。あと冬コミの本を書いたりした。Corne Cherryの3Dプリントケースを作った話をまとめた本です。冬コミは大晦日31日の南ラ-15bです。来てね。

plustk2s.com

キーボード7台目。Corne Cherryの3DプリントケースをDMM.makeの3Dプリントサービスで出してみた。実は自分が設計したキーボード以外のキーボードを2台以上組むのは初めてです。

素材はナイロンで磨きや着色は無し。やはり餅は餅屋というべきか、業務用プリンターで出力されたナイロンのケースは非常に美しく、天キーで買ったCorne Lightの基板を納めたらケースのデザインといい既製品のような美しさ(自画自賛)になった。

ちなみにキースイッチはKailh Box Royal(Krytox 205 g0塗布)とePBT 2048 Extend。そもそもCorne Lightが訳アリ品で3ピンのキースイッチしか使えない仕様だったのもあるが、ボトム側のハウジングが白いキースイッチを使ったので隙間から見えるキースイッチも白で統一されててすごく良い。

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ぺかそちゃんクリスマス衣装になる。

まとめ

2018年も自身のキットであるFortitude60を頒布したりなど大きく動いた年だったが、今年もめちゃくちゃなムーブをしていたなぁという気持ちです。まさかVTuberの裏方やり始めたり、ITmediaの連載を持つとは…人生とは一体…

来月にはほぼ週刊キーボードニュースは1周年を迎えます。本当にこんなことになるとは思ってなかったので何していいかわかりませんが引き続きキーボード関連のニュースを伝えていければなぁと思います。番組構成とか意見くださいこちらでも良いです

ぺかそちゃんも頻繁にお着替えしたり色々頑張ってくれて本当にありがとうという気持ちです。今後とも良い関係を続けていければと思います。

それではまた来年!

(ファンアートが見たいから #自作ぺかそちゃん で投稿してくれ頼む…!何が足りないんだ…?三面図か…?うおおぉぉぉぉ)

この記事は最初はHHKB Professional HYBRID 英語配列無刻印で書いていましたが飽きたので途中からFortitude60-brdで書きました

おわり