カーボンでErgo42を作った話
この記事は自作キーボード #3 Advent Calendar 2018 8日目の記事です。
今年は#3までできてて自作キーボードの人気が凄まじいですね。
キーボード、作ってないのはお前だけ。
Ergo42
Ergo42はBiacco氏(@Biacco42)が開発したキーボードです。現在は最新版のErgo42 TowelがBoothで販売されています。
7列4行の直交配列レイアウトで、USBケーブルが横方向に出たりだとか、TRRSもL字ケーブル使うと奥行きが短く済んだり等こだわりを感じるキーボードです。なんでErgo56じゃないの?
他人のキットを組む
これ見ている人は知っているとおもいますが、自身もFortitude60というキーボードを開発しました。(唐突な宣伝)今は売り切れ状態ですが来年1月中にはなんとかしたいと思っています。
設計がそっちに引っ張られるだとかお金が無かったとか…でこれまであんまり他人のキットを(あえて)組んできませんでした。しかしやっとこさFortitude60の設計と頒布も一段落したので、なにかキーボードを新しく組んでみることにしました。
そんなことを思っていたところ、先月の頭に #天キー というイベントが行われた際にErgo42のアウトレット品が出ていたので購入しました。武器商人ひよこ軍曹(@adeonhy)ありがとうございました。
ゴガガゴガコッて音がしてなんかきた pic.twitter.com/7xeuqvQ9iP
— ぺかそ⌨️2日目東ナ-16a (@Pekaso) 2018年11月11日
今回の†特徴†
久々に新しく組むとはいえ普通に組むのは確実に面白くない(そもそも入手したのが現行のErgo42 Towelではない旧版のErgo42)ので、今回はケースをCFRP、カーボンで作ることにしました。カーボンですよカーボン!!
CFRPはCarbon Fiber Reinforced Plastic、日本語で†炭素繊維強化プラスチック†と書きます。とてもかっこいいですね。名前の通り炭素からなる微結晶を編み込んだ炭素繊維をプラスチックと結合させた素材で、軽量で強度が高く、耐薬品性にもすぐれるつよつよ素材です。こういった特徴を必要とするテニスラケットのスポーツ用品から車航空機、宇宙関連の資材などに用いられています。
そんなCFRPですが、ホビー用途で使うとなると割と難易度が高く、そもそもどこで買えるのとか加工どうやってするのとかでこれまであまり見かけることは少なかったです。(お金掛けたロボットとかラジコン飛行機とかでちょいちょい見かけるぐらい)
ところが最近、みんな大好きAliexpressでCFRPのCNC加工サービスが注文できると聞き、試しにやってみることにしました。これが成功したら軽くて丈夫なErgo42ができるぞ!
moryu-io-studio.hatenablog.com
注文の仕方
大体先行事例の上のページに書かれていますが、いつものように「実質無料!」と叫びながら気絶してポチっても注文できないどころかブラックリスト入りされます。ちゃんと英語の注意事項を読んで手順を踏みましょう。
Aliexpress内を検索すると結構色々な業者が出てきますが先行事例と同じここを利用しました。今の所のおすすめです。
1. 図面を用意して見積もりをする
まずは先方に図面を送って見積もりを取ってもらいます。図面は2D CADの形式(DWGかDXF)で作成し、商品説明欄に書いてあるメールに添付します。
今回はErgo42のケースなので、GitHubで公開されている図面をお借りしました。そのままだと片手分のデータなので見積もり時に2組必要と伝えると確実に言語の壁で事故が発生すると予想されます。なので予め両手分になるように図面上でコピペして増やしておきます。
また、縮尺ミスってミニチュアが出てくる悲しい事故を防ぐため、寸法を測ったスクショも添付しておきました(ちゃんとデータができていれば不要ですが)
あとは必要な厚さ(何mm)、日本に送ってほしい旨を(英語で)伝えました。今回はErgo42のアクリルと同じ3mmで注文しました。
2. 見積もりが返ってきたら支払う
日曜日の午後ぐらいに送ったら3時間後に見積もりが返ってきました。クソ早かったです。休みはないのか。
ちなみに今回のErgo42の場合は材料&加工費が$40、送料が$20の合計$60でした。ちなみに発送はEMSだそうです。
あとはいつものようにAliexpressで注文します。ここのお店では「Plain glossy」「Plain matte」「Twill Glossy」「Twill Matte」の4種類のCFRP素材から選ぶことができます。
これらはカーボンの編み方と、表面処理の違いで、Plainは直交配列のキーボードのように網目が縦横に整列していて、TwillはStaggeredのように斜めにずれた編み方をします。分かりづらいですね。以下のページを見てください。
https://www.carbon.ee/en/n/carbon-fiber-all-patterns-explained
glossyとmatteは表面処理がつやつやかそうでないかの違いです。今回は「Plain matte」で注文しました。$60なので$1の商品を60個買います。
3. 支払いの連絡をして待つ。
支払ったら必須では無いですが、AliexpressのOrder IDが注文時に出てくるのでそれをさっきのメールの返信として「支払ったよ!!!」と送りましょう。少ししたら「OK, got order」と返事が来るので後は届くのを待ちましょう。
今回は11月11日に注文して20日に発送された後、23日には届きました。早かったです。
カーボンファイバーなErgo42のケース届いた pic.twitter.com/fehUjPn61L
— ぺかそ⌨️2日目東ナ-16a (@Pekaso) 2018年11月24日
組み立て
届いたらそのまま組み立てへゴーです。昔から買ったゲームは帰りの電車内で取説読む派でした。
おお… pic.twitter.com/OYxmNQ2TeD
— ぺかそ⌨️2日目東ナ-16a (@Pekaso) 2018年11月24日
洗う
どうやら切削したものをそのまま梱包してるっぽいため、だいぶカーボンの粉まみれでそこらじゅうが真っ黒になります。そのため使う前に一旦洗います。手洗いでも大丈夫だと思いますが、どの家庭にもある超音波洗浄機でじゃぶじゃぶしました。終わった後は水が墨汁になりました。
精度とか
提出した図面はレーザーカット用のデータそのまま使用しましたが、細かい部分で結構差がありました。これはレーザーカットとは違って一定の大きさがあるドリルで切削するためです。特にキースイッチがハマるプレートの穴の内側の角がドリルの径の分だけ丸くなっているのが目立ちました。実際のスイッチは問題なくハマるのでキースイッチぐらいであれば十分な精度ですが、例えばFortitude60のケースのデータなどは細かい穴の部分でうまくいかない可能性があります。
また気になったのでアクリルのケースとの重量を比べてみました。アクリルの方は保護シートが張りっぱなしですが底まで大きな差にはならないでしょう。
てっきりCFRPがめっちゃ軽いかと思いきや40gちょいCFRPの方が重いです。見た目も相まって結構ずっしり目です。どれもこれもCFRPのくせに3mmもあるせいなのですが。アクリルと同じ強度であれば再設計必要ですが1mmあれば十分でしょう。3mmだと曲がりもしません。パキッと割れそうになるアクリルと違って絶大な安心感があります。
組む
あとは通常通り組んでいきます。組み立てはErgo42の公式のビルドガイド通りですが、PCBの端面をマッキーで黒く塗ってかっこよくしたり、もげ対策でPCBとmicroUSBコネクタがくっつくように間に両面テープ挟んだりしました。キースイッチはKailh Pro Burgundyです。メインのFortitude60にもこれのPurpleが入ってたりと最近のお気に入りのスイッチです。遊舎工房で買えます。
完成!
ケースがカーボンになっている以外は至って普通のErgo42です。しかしカーボンになっている事によって尋常ではないレベルの強度を手に入れました。PCBもガラス繊維なのでもうガッチガチです。
今回のCFRP部品の発注で得られたことまとめです。
- 割と安く作れる。黒マットアクリルからちょっと背伸びすれば作れる。
- 加工精度は良さげ、ただしあまり細かい穴の加工は苦手かも
- 見積もりも発送も早い(業者による)
- 粉っぽいので最初に洗浄必須
- 強度はカーボン。見た目もカーボンでかっこよさみが強い。
- カーボンで作るならもっと薄いやつで作っても良い。厚いとひたすら重い。
- 打鍵感は高い音にシフトする感じ。底打ちはめっちゃ硬い。
なんと言っても見た目のカーボンっぽさバリバリな感じがかっこいいのでこれだけでお腹いっぱいになります。おすすめです。
明日の担当は@nununununuさんです。
この記事はオタクブラック仕様のFortitude60で書きました。
届かなかったPebble Time 2
この記事は悲しみの記事が集う届かないクラウドファンディング Advent Calendar 2018の7日目の記事です。
私が愛してやまなかったPebbleたちと、発売されることのなかったPebble Time 2について供養の意味も込めて書きます。
Pebble
Pebbleはメモリ液晶を搭載したスマートウォッチとして2012年に登場しました。
当時はApple Watchはおろかスマートウォッチという物自体が出始めであり、あってもバッテリーが1日もつのが難しいだとか、時計を常に表示してくれないだとか、重くてでかいだとかで未だギーク向けガジェットといったものでした。
そんな中登場したPebbleはモノクロ表示であるものの、7日間もつバッテリーを搭載し、画面の更新時以外電池を食わないメモリ液晶なので常に時計が表示され、40g以下ととても軽いとこれまでの不満をすべて解消した実用的なスマートウォッチとして登場しました。それでもって99ドルという安さから人気を集め、当時のKickstarterとしては記録的な1000万ドル以上を集め大成功を収めました。
ちなみに当時私はKickstarterではバックせず、一般販売のものを入手して使っていました。今見返したら2014年でしたね。 kou014.hateblo.jp
最初は日本語表示含む2バイト文字の表示ができなかったのですが、OS側で多言語対応(中国語)した際に有志によってカスタムフォントが作成され、日本語表示が可能となり日本のユーザーにとっても使いやすくなりました。
Pebble Time
Pebble TimeはPebbleのアップデート版として2015年に登場しました。バッテリーの持ちはそのままにとうとう画面がカラー化し、かわいいUIに一新されました。外装も薄く、角も丸みを帯びてよりおしゃれになり、表面はゴリラガラスで覆われました。(初代も金属筐体版のPebble Steelでゴリラガラスが使われていました。)
登場した20分後には目標の50万ドルを達成し、私も朝起きて速攻でバックしましたが10,000人のアーリーバードは既に埋まっていました。最終的には2000万ドル以上を集め、現在に至るまで(さっき少し調べた程度)Kickstarter史上最高額です。(前機種で大成功したんだからわざわざKickstarterでやらなくてもいいじゃんって苦言を言われるぐらいすごかった)
速攻でバックして届いてからずっと愛用していました。 kou014.hateblo.jp
Pebble Time 2
と、これまで成功を収めたPebbleシリーズですが、2016年にはモノクロのオリジナルPebble、カラーのPebble Timeの後継としてそれぞれPebble 2、Pebble Time2が発表されました。目玉の機能として当時ウェアラブルデバイスの流行りとなっていた心拍センサーを追加し、アクティビティトラッカー方向へシフトしました。更にGPS、Bluetooth、モデムを積んだPebble Coreなるデバイスが追加され、組み合わせてスマホなしでもトラッキングや音楽も聞けちゃうデバイスになるとのことでした。
これまでの優等生っぷりなどから今回も確実に成功し、問題なく製品が出てくるだろうと誰もが思いました。私も当たり前のようにバックし、最終的に1200万ドルを集めてぶっちぎりでゴールしました。
突然のプロジェクトの終了、そして伝説へ…
5月の末にプロジェクトが開始されてからは頻繁に状況が報告され、SDKの公開やPebble CoreがAlexaに対応した等問題なく順調に進み、やや遅れたものの10月頭には予定通りモノクロの方のPebble 2の発送が開始されました。
しかし10月末のiOS10のBluetoothのバグ修正のアップデート以降プツリと途絶え、予定していたPebble Time 2とPebble Coreの発送日を過ぎても音沙汰ないことから「あの優等生のPebbleが!」といった雰囲気でコメント欄が燃えていたのを覚えています。
そして10月22日、直前のBloombergの報道とバッカー達の不安が的中し、PebbleがFitbitへ買収されたことと、プロジェクトのキャンセルと返金が発表されました(未発送のPebble 2含む)。返金が遅れるなどで更に若干コメント欄が荒れましたが、数カ月後私のアカウントにも返金処理が行われPebble Time 2は日の目を見ることなく消えていきました。
スマートウォッチというビジネスの難しさ
Pebbleはクラウドファンディングから登場し、成功を収め、独特の雰囲気を持ったスマートウォッチを作り続けていましたが、やはりビジネスとして成立させるのは難しかったのかなと思います。それは数百年前から君臨する半分装飾品の腕時計の存在や、バッテリーを持つ事による機器の寿命的な部分などが要因として思ったより市場が広がらなかったせいかもしれません。スマートフォンと違って無くて死ぬデバイスでもないですし。
Pebble Timeの後に完全円形のディスプレイを搭載したPebble Time Roundを発表し、よりカジュアル方向に変化しましたがこちらはあまりうまくなかったようで、Pebble Time 2でフィットネストラッカー要素を追加しましたがそのときにはもう遅かったかもしれません。当時Apple Watchが登場し、Series 2でGPSを搭載し単体でのトラッカー性能を向上させて市場のシェアを掻っ攫っていたあたりもきつかったと思います。
Pebbleを吸収したFitbitもフィットネス要素を全面に推して製品展開を行い、今年もPebbleのIPを活用したと言われているFitbit Versaをリリースするなどしていますが、あまり儲かってる話も聞こえてきません。。スマートウォッチはレッドオーシャンなり…
その後
Pebbleが買収されPebble Time 2のプロジェクトがクローズされてからも、少しですがアップデートが続いていました。特に2017年に行われた最後のアップデートであるv4.4では、これまで必要としていたPebbleアカウントとPebbleのサーバーへの接続を必要とせず、外部のサーバーへの接続やアプリが導入できるようになりました。Fitbit買収後いずれ訪れる時に備えたアップデートをちゃんと残してくれたあたり、Pebbleは最後まで優等生であり続けたと思います。
2018年6月に事前告知通りPebbleのサーバーがシャットダウンされ、その役割はユーザーコミュニティのRebblehttp://rebble.io/に引き継がれました。 rebble.io
私の所持しているPebbleとPebble Timeは、これまでもずっと毎日使用し続けていました。しかしPebbleはディスプレイが不調になり、Pebble Timeはバッテリーの劣化か頻繁に再起動とリカバリー状態が発生するようになりだんだんと使用に耐えられなくなってしまいました。乗り換え先を色々探していましたが、あの愛らしいUIとアニメーションが好きだったのですが、その部分はFitbitに引き継がれなかったのが残念です。
メインの端末がiPhoneXということもあり、10月にApple Watch Series4に乗り換えました。Pebbleの5倍以上高かったです。
素敵な製品を作ってくれてありがとうPebble